1.千葉科学大学図書館へ
前回のブログで引用した黒木教授の所属先である千葉科学大学危機管理学部で、さらに文献を探そうと思い立ちまして、千葉県銚子市の千葉科学大学マリーナキャンパスへ訪問してきました。


なんとキャンパスの目の前に海水浴場があり、海を眺めながらの学生生活を想像すると羨ましくなりました。
ここの図書館は学外にも開放されており、校門で守衛さんにお断りのうえ、図書館へと進みました。

2.修士論文を発見
勉強している学生を横目に書庫を見て回ったところ、関連文献を見つけました。
〇平成29年度修士論文集 危機管理学研究科危機管理学専攻
入浴関連事故の予防につながる要因・拝啓を分析する研究 相川春華
〇平成30年度修士論文集 危機管理学研究科危機管理学専攻
入浴関連事故の現状と予防に関する研究 御﨑紗裕里
読み進めると、このお二方は、黒木教授の指導のもとに修士論文を書いたことがわかりました。どちらの修士論文も、大規模に、かつ詳細に入浴中の事故を調査・研究されています。
要約すると、『入浴事故は「ヒートショックによるもの」と考えられており、室温と湯温との関係に注意喚起されてきました。しかしながら、入浴事故の発生原因は「熱中症によるもの」であり、入浴事故を減らすためには入浴方法の注意喚起を行い、認知させる必要がある』とのことです。
熱中症にならない入浴方法は、前回のブログのおさらいになりますが
・食事直後・飲酒後の入浴は控える
・入浴前に浴室、脱衣室を暖める
・入浴前後に水分補給をする
・お湯の温度は41℃以下
・浴槽につかる時間は10分まで
すべて体温が40°C以上にならないようにするために注意したいポイントです。
3.入浴事故への喚起
入浴方法の注意喚起に関して、相川さんの研究のなかにリフォーム会社として興味深い章がありました。「第3章・入浴事故への喚起」です。
この章は住設メーカーが、入浴事故についてどのような文言で注意喚起しているのかを調べたものです。
簡単に抜粋します。
クリナップ→ヒートショック(ヒートショックの機序記載なし)
トクラス→ヒートショック(ヒートショックの機序記載なし)
TOTO→ヒートショック(ヒートショックの機序記載なし)
タカラスタンダード→ヒートショック(ヒートショックの機序記載なし)
ノーリツ→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)、意識障害・熱中症
ハウステック→ヒートショック(ヒートショックの機序記載なし)
パナソニック→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)
LIXIL→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)
リンナイ→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)、熱中症
「今回、関連ワードを調査した大手浴室設備メーカーでは9社中9社がヒートショックについて触れていた。熱中症については2社が触れていた」※1
これは8年前の平成29年の調査であるので、私が令和7年現在で再調査してみました。
・・・・が更新されたところです。
クリナップ→ヒートショック(ヒートショックの機序記載なし)
トクラス→ヒートショック(ヒートショックの機序記載なし)
TOTO→ヒートショック(ヒートショックの機序記載なし)
タカラスタンダード→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)
ノーリツ→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)、意識障害・熱中症
ハウステック→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)同社のエコキュートには熱中症の記載あり
パナソニック→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)
LIXIL→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)
リンナイ→ヒートショック(ヒートショックの機序記載あり)熱中症
ヒートショックの機序については、タカラスタンダードとハウステックに記載が増えました。
熱中症についてはハウステックのエコキュートに記載が増えました。熱中症についての注意喚起が広がるよりも、ヒートショックについての機序がさらに広められているという残念な結果になりました。注目したいのは、浴室設備メーカーではなく、給湯器メーカーは入浴による熱中症を認識している点です。人の体に触れる熱いお湯を作るということは、それだけ責任が重大なのだと思います。
4.LIXILへの訪問
千葉科学大学訪問から数日後、前回のブログでも書いた「浴槽が無ければ溺れない!」浴槽レス浴室の新商品がLIXILから発表され、展示会がありましたので見学してきました。

高級感漂う「シャワーユニットNS」です。左側の黒い部分がベンチになっています。展示セットの価格は2,546,800円です。

こちらはシャワーユニットにファブリックの浴槽を取り付けられる「バストープ」。必要なときだけ広げて使う、たためる浴槽です。展示価格2,200,000円です。
なかなか斬新な商品ですが、普段はシャワーでたまに湯につかりたいという声にこたえる先進的な浴室です。しかも追炊きもできず、冷めやすいですから熱中症になりえません。開発したLIXILのテクノロジーリサーチ本部は、黒木教授と共同研究をされており、浴槽レス浴室(溺れない浴槽も)を積極的に開発しているものと思います。
5.国土交通省・国土技術政策総合研究所 建物事故予防ナレッジベースのご紹介
〇https://www.tatemonojikoyobo.nilim.go.jp/kjkb/learning/learning_f.php#a03
こちらのウェブサイトは、「家庭の浴室における溺水事故を予防するために実態と対策、関連情報について建築的な視点を含めてまとめて」あります。
まとめ
すでに多くの研究者が入浴中の事故は熱中症であると結論付けており、対策の研究を続けています。われわれも、お客さまの事故を予防するために一層取り組んでいく所存です。
※1 入浴関連事故の予防につながる要因・背景を分析する研究(千葉科学大学平成29年度修士論文集 危機管理学研究科危機管理学専攻 相川春華)
文/菅原克弘